インターネット時代に必要なのは荒野開拓的発想



20160720

    前回は日米の人材エコシステムの違い、その人材確保と育成への影響、さらに技術とビジネスモデルのイノベーションに出てくる影響についてお伝えした。今回は米国西部の荒野開拓的な発想と日本の“売って何ぼ”的な発想の違いによるビジネスイノベーションへの影響について。そして、新しい産業革命におけるエコシステムに基づいたビジネスモデルと、スタンドアロン(孤立)型ビジネスモデルの大きな差についに述べる。

ネットの発展はまさに“西部劇”

    筆者は西部劇が大好きである。19世紀末までアメリカ大陸西部の広大かつ荒涼とした土地には住む人が少なかった。ゴールドラッシュが始まったことで、巨万の富を夢見た人々が東海岸から馬や馬車に乗り、険しい道、あるいは道なき荒野を西へ西へと進んだ。トムクルーズとニコールキッドマンが主演した映画 「Far and Away」にはまさにこうした状況を映した作品だ。

    当時の西部地域の為政者は開拓者を誘致するため、あるレースを打ち出した。参加者に旗を持たせ、数マイル先にある区分化された土地に向けて一斉に走らせる。気に入った区分に着いて手持ちの旗を土に挿せば、その区分の土地が自分のものになる、というレースである。これはまさしく最初に創出した西部開拓ため のエコシステム的なビジネスモデルであった。土地は人々にタダで与える。すると、土地を得た人々は、その土地に住み着いて開拓を進め、ある程度生活が豊かになったところでさらに親戚や親友を呼んだり、家族を増やしたりする。やがて学校や病院、バーやレストラン、さらには銀行や市場もできて、立派なエコシステム(生態系)として成長し、繁栄して行く。

    現代になって、この西部劇と似たシーンが再現された。舞台は、1990年代初頭に一般公開され始めたインターネットである。我々にとってリアルな世界と異なるもう1つの世界となった。その世界は当初、19世紀の米国西部と似て、コンピューターと通信関係の研究者たちだけがいる、広大かつ荒涼なバーチャルステート(擬似大地)であった。そこにとてつもない巨大なビジネスチャンスが潜んでいるとは誰も知らなかった。このバーチャルステートにはあまりにも“人口”が少なく、ビジネス上の価値を見いだせないのは無理もなかった。

    それでも、次第にさまざまなインフラとなるシステムが構築され始めた。各種のコンテンツサービスは無料で提供されていた。そこに人々がやってきてユー ザーになってくれる。その彼らが日常生活の中でこれらのサービスを日々使うにつれて、自然に“人口”や各種サービスにおけるアクテビティが雪だるま式に増え、やがて巨大なエコシステムが形成され始めた。

    このようなインターネット上のエコシステムをここでは、「ビットエコシステム」と呼ぶことにする。このビットエコシステムを主催する者が、巨大な価値を持つ一種の新しいプロパティー(たくさんの人がいる疑似大地)と、コモディティー(たくさんのユーザーデータおよびアクティビティとしての資源)を手に入れることになる。これらもそれぞれ、「ビットプロパティー」と「ビットコモディティー」と呼ぶことにする。ビットエコシステムの中の“人口”、つまりユーザー数が多ければ多いほど、ビットプロパティとビットコモディティの価値も高く評価される。

    最初に述べたように土地を囲い、移民をたくさん誘致してエコシステムを形成させる発想がそもそも西部開拓時代にはすでにあった。インターネット上でこの西部開拓的な発想を用いて戦略的にビットエコシステムを作り出し、それがもたらすビットプロパティとビットコモディティに巨大な利益が潜んでいると、最初に気づいたのも、開拓者的な思想を持ち、冒険精神も旺盛だったシリコンバレーのアントレプレナー(起業家)とベンチャーキャピタリスト(投資家)たちだった。

    そしてそこではYahoo!やHotMail、America OnLine(AOL)、次にGoogle、YouTubeやiTune、それからFacebookやTwitter、さらにはInstagramなどのサービスが次々に誕生し、目覚ましいスピードで成長し続け、あっという間にユニコーン企業(非上場の巨大ベンチャー)になった。巨大なキャピタルたちも 争ってこれらのスタートアップ企業に戦略的な投資を行ない、インターネットにおけるビットエコシステムの創出と制覇戦が繰り広げられた。これらのスタートアップ企業の勝者がその分野のビットエコシステムの覇者になった。そしてその勝利の成果として、投資したキャピタルたちと共に巨大なビットプロパティーと ビットコモディティーを得て、巨額の利益にあずかった。一方、敗者は身売りになるか、一文無しになって消えて行く結末になった。

厳しい状況への転落は“売ってなんぼ”の論理的帰結

    新しい産業革命における資本主義経済では、こうしたビットエコシステムで覇者となったスタートアップ企業を「ファーストティア(First- Tier)」として扱い、伝統産業の大企業よりもはるかに高い評価値をつけている。新しい産業革命において、伝統産業の企業たちは、さらなる大きな成長を望めるどころか、逆に業績がどんどん下がってゆく確率が増しているからだ。

    次にセカンドティアの位置を占めるのがプラットフォーム企業である。彼らは仲介や流通及び決済などのプラットフォームを用いて顧客の各種アクテビティーに関わるデータを入手できる。これらのデータも一種の新しいビットコモディティーであり、高い価値を持っている。

    製造業や販売店などにおいて“売って何ぼ”のビジネスモデルを持つ企業がヒット商品やサービスを作り出すには、ファーストティアとセカンドティアから、さまざまなバーチャルな場所(ビットプロパティー)やユーザーデータ(ビットコモディティー)を借りなければならない。しかもこのような企業は競合他社の数も多く、お互いに売れ筋を見て類似の商品やサービスを作り出して競争することになる。巨額の開発費をつぎ込んでやっと開発できたヒット商品やサービスがすぐに周囲の企業に真似され、ターゲット市場があっという間にレッドオーシャンになってしまう。結果、このような企業はサードティアに位置付けられ、ファーストティアやセカンドティアと比べてかなり低い価値で評価される。

過去の成功体験が大きな足かせに

    日本を含むかつての農耕的な国・地域では、基本的にはこの“売って何ぼ”というもっとも単純なビジネスモデルがずっと続いてきた。プロパティー(土地) とコモディティー(資源)は彼らにとってあくまでリアルな物であって、数量が限られて大変貴重なものである。これらは高額で取り引きされたので、タダで人に与える発想なんてとんでもないことであった。

    ましてや、インターネットというバーチャルな世界で巨額のお金をかけてビットエコシステムを作り、ビットプロパティーとビットコモディティーを創出するという西部の荒野開拓的な発想に基づくビジネスイノベーションは想像だにしなかった。だから、当時米Yahoo!社や米Google社などが“売って何 ぼ”のレベニューモデルがなかったのに巨大なキャピタルたちが争って投資したのを見て、首を傾げるばかりだった政府と企業の幹部達が数多くいた。その結果として、新しい産業革命が始まって間もないうちに、インターネット上で創出されたビットエコシステムとそれがもたらしたビットプロパティーとビットコモディティーの大半が、米国のスタートアップから成長してきた企業に押さえられた。

    この20年間、日本企業は一所懸命頭をひねっていろんな新製品やサービスを開発してきた。ただし、インターネット上のビットエコシステムを利用して商品の企画やデザイン、それからマーケティングやセールスを行うところが極めて少なく、従来のスタンドアロン的なやり方のままでやってきたのがほとんどだっ た。その結果、ヒット商品も少なかった。また、村を守る農耕的な発想と、過去の栄光とやり方にどっぷりと浸かっていたため、世の中でさまざまな激変が起こっていたにもかかわらず反応が鈍かった。その結果、新しい産業革命初期という絶好のタイミングを見過ごしてしまい、最も重要なファーストティアとセカンドティアにおける戦略的な布陣に大幅に乗り遅れた。これはとても残念なことだった。

    上述のように、“売って何ぼ”のビジネスモデルを持つ企業は新しい産業革命においてサードティアに位置付けられており、下流の企業でしかない。そうした企業がターゲットユーザーとマーケットの詳細な情報を把握したければ、上流にあるビットエコシステム企業やプラットフォーム企業から各種ビッグデータを入手するしかない。でなければ、ヒット商品に必要とされる、ターゲットユーザーとマーケットにフィットする企画やデザインがうまくできない。

    その後、商品を売るにしても商品の宣伝や販売などのチャネルは、上流にあるビットエコシステムやプラットフォーム企業に大きく依存せざるを得ない。つまり、商品を売るにはこれらの上流企業に高額な料金を支払う必要がある。これらの費用がトータルコストをつり上げてしまい、それがまた競争力を低下させる悪循環に陥りやすい。下流はレッドオーシャンになりやすいし、利益が非常に薄い。さらには、台湾や韓国および中国と競争していかなければならない。日本企業が大変厳しい状況に置かれている主因が実はここにある。

まずは荒野開拓的な発想を身に着けよ

    新しい産業革命はまだ序盤であり、これから新たなビットエコシステムがいろいろと誕生して来る。また、ビットプロパティーとビットコモディティーにおけ る争奪戦がさらに激しく繰り広げられると予想される。日本企業はこれからどう動くべきか、戦略的にどう布陣すれば、これまで得意としていたもの作りから、不得意だったビットエコシステム創出につながっていくのかを本当に真剣に考えなければならない。今度こそ、幾つかのタイミングとチャンスを正確にモノにして、上流のビットエコシステムから下流の製造とサービスまでの生態系ライン(ビットライン)を構築してほしい。このためには、シリコンバレーに潜り込み、西部の荒野開拓的なDNAをたっぷり身につけてから日本に戻り、各種業界にそのDNAを広めていくことが、実行可能な1つのソリューションであると思う。