スタートアップは“日米合作”が最強



20161213

    2016年9月23日金曜日、待ちに待った西部劇「Magnificent Seven」が公開されたため、早速観賞に行った。久々の正真正銘の西部劇なので、始終興奮気味でみていた。

    映画は貪欲かつ冷酷な金鉱ビジネスマンBartがRose Creekという小さな街にやってきて、暴力で街の統治権を奪い取ったことから始まる。Bartの真意は街の近くにある金鉱にあった。Bartの暴力に反抗した人たちが殺された。街の人々は毎日怯える生活を強いられた。犠牲者の中にEmmaという若い女性の夫が含まれていた。Emmaはこの状況に耐えられず、出会った賞金ハンターのSamを説得し、街の人々(農民達)からお金を集めて彼を雇った。Bartに対抗し、街を元通りに戻すことをSamに託したのである。Samは早速行動を起こし、他に6人の各種プロを集結し、チームを作った。Bartの大勢の手下と戦うため、7人がそれぞれ役割を分担し、農民たちを訓練したり、街を廻って戦闘用塹壕を掘ったり、ダイナマイトを埋めてセットアップしたりした。やがってBartの大軍がやってきて、熾烈な戦いが行われた。7人のプロのチームが農民たちと一丸になって戦闘に臨んだ。最終的に7人のうち4人を失ったものの、Bartを含めた敵を全部殲滅し、勝利を収めた。

日本でのスタートアップのケーススタディに

    あらすじを一読すると、いかにも“こてこて”の西部劇だ。しかし、映画のタイトルやストーリーの流れから、この映画が実は黒澤明の「七人の侍」(1954年)のリメイク「荒野の七人」(1960年)のリメイクであることに気が付いた人も多いはずだ。この極めて米国らしい西部劇が実は日本発のストーリーである点がポイントで、実際詳しく解析すると、これは現在の日本の状況に適用でき、日本のスタートアップに最適なモデルケースとして理解できると分かってくる。まずこのストーリーを一種のスタートアップ事例であると捉えて解析してみよう。

    事例名は「Rose Creekの解放」、ミッションはRose Creekという街を暴力統治から解放し、街の人々に平和な暮らしを取り戻すことである。スタートアップを創立するのはEmmaという若い女性と彼女の友人1人。彼女らが挙げた旗(理念)は悪を倒し、人々が自由に生きる権利を取り戻すことである。Emmaには前述のミッションの実現以外に、殺された夫のためBartに復讐するという個人的な動機もある。ただし、自分達(Emmaら)はただの農民であるため、ミッションを実現するためのスキルや知識および経験などを持ち合わせていない。このため、現実的には、街の人々からお金を集めて(クラウドファンディング)、プロを雇い、必要最小限の条件を揃えて、戦いに臨むという選択肢しかない。

    次にステップ・バイ・ステップでEmmaらの具体的なアプローチを解析してみる。

ステップ1:適切なリーダー(CEO)を探せ

    これはスタートアップの創立者の一番重要な仕事で、目利きが必要とされ、起業成功への第一の関門ある。「Magnificent Seven」にはSamはプロの賞金ハンターであって、戦うためのすべてのスキルと知識および経験を持っている。もっとも重要なのが、彼は正義感のある人で、暴力で人々を制圧することに反感を持っている点である。だからこそEmmaが彼を選んだのである。彼女らはこのスタートアップの背景や理由とミッションおよび自分の理念とパッションをクリアに相手に伝えることで、Samの説得に成功した。

解説 リーダー(CEO)は、イニシャルチーム作りを始め、各事項を遂行して行き、最終的にスタートアップを成功に導いて行く中心人物である。このため、候補となる人物は相当な高さの知力と対人スキル、体力と忍耐力、技量と経験および知識と洞察力など総合力が必要とされる。創立者は自らの目利きで探すほかに、コネクションのあるエージェントに頼むなど、あらゆるチャネルと手法を使って探すべきである。もちろん、世界で戦えるプロが一番望ましい。リーダーの選定後は、創立者のアイデアや技術、利用可能なあらゆるリソース、さらには理念とパッションを持ってCEO候補者を説得する。アイデアとニーズおよび市場規模などの要素が明確で、成功への目算も大きく、創立者の理念とパッションがCEO候補者の理解できるもので、提示する条件もフェアであれば、“取引”が成立するだろう。

ステップ2:イニシャルメンバーをハンティングし、チームを作れ

    これはリーダー(CEO)にとって最初の重要な仕事になる。どのようなメンバーを集めるかによって、個々の任務の遂行が順調に進むかどうか、必ず遭遇する想定外の難関を突破できるかどうか、最後に勝利までゴールインできるかどうかが左右される。「Magnificent Seven」の中でSamは、まずカードギャンブラーのJoshを探して来た。なぜならJoshは人脈が豊富で、さまざまな高いスキルを持つ人材を知っている。Joshは自ら各地を廻って必要なメンバーをハンティングしてきた。具体的には、元軍人で戦争ヒーローのGoodnight、忍者みたいなプロの刺客のBilly、追跡プロのJack、アウトローなメキシコ人ガンマンのVasquez、生まれ育った村を出て、新しい人生を模索している弓矢使いのネィティブアメリカンRed Harvestであった。

解説 スタートアップを成功させるには、必要な分野に対応するメンバーを揃えばよいと考えるのが一般的だ。しかし実際には、任務遂行中に起こる想定外の難関を次々に突破し、熾烈な戦いに勝ち続けるには各メンバーの知識とスキルだけでは足りない。文化やパーソナリティの多様性(diversity)とそれらによるその場その場での化学反応が非常に重要になる。

    これを「Magnificent Seven」の人物に照らして説明してみる。やや荒っぽくても全体の流れをよく俯瞰でき、戦略かつ戦術上のセンスを持っている人物がリーダー(CEO)に適任であろう(参照人物: Sam、黒人で英語とネィティブアメリカンの言葉を話す)。

    リーダーが集めたのは、戦うスキルはもちろん、人脈が広く、人の心をよく読めるチーム副リーダー(COO)的な存在(参照人物: Josh、白人で英語を話す)、神経質だけど新しい参加者を組織して訓練するのが得意(参照人物: Goodnight、白人で英語を話す)、孤高で無口だが着々と重要案件をこなせる(参照人物: Bill、アジア人で英語と母国語を離す)、少し年寄りでアルコールが好きだが情報収集と分析に強い(参照人物: Jack、白人で英語を話す)、アウトローなカウボーイだけど戦闘力が抜群に高く陣取りに強い(参照人物: Vasquez、ヒスパニックでスペイン語と英語を話す)、内気でコミュニケーションが苦手だが高い弓矢スキルを持っている(参照人物: Red Harvest、ネィティブアメリカンの言葉と英語を話す)といった強みをそれぞれ持っている人材ばかりだ。こうした得意分野とスキルや経験、さらには人間性(人種、性格、言語と文化など)の多様性に富んだ各分野の達人がチームになって、同じ目標と利益というベクトルを揃えて目標に向かって突進すれば、最終的な勝利を収める確率的はかなり高くなる。

ステップ3:みんなが一丸になって、勝利を確実に

    イニシャルメンバーの各プロがそれぞれの役割を分担し、任務を遂行して行く。「Magnificent Seven」の場合では戦いに、傭兵や外人部隊も利用する。ただし、彼らにすべて丸投げではない。Emmaら創立者やクラウドファンディングに参加した農民らも、プロチームの指導の元で自分達の街を取り戻すために一丸になって一所懸命に準備し、そして戦う。この結果、各人の力が充分発揮され、最終的に悪者リーダーであるBartを含めた数百名の敵を全員殲滅し、街の平和と自由を取り戻した。

解説 Rose Creekは基本的には農民の町であり、彼らだけで銃を使い慣れている悪の勢力と戦うのは無理がある。そのため、プロの戦士7人を雇ったが、巨大な悪の集団を倒すには7人のプロだけでも敵わない。どうすればよいか。

    農民は、戦いには素人であるが、具体的な準備、例えば塹壕を掘ったり、ダイナマイトを埋めたりできる。また、プロ戦士の指導の元で銃を撃つ練習したり、戦闘知識を習ったり、さらに実際の戦闘の中で磨いていくことで、優秀な戦士になる人もでてくる。この全く異なる二つのグループの人がうまく組んで、それぞれの特徴と強みを充分に発揮させれば、化学反応が起き、巨大なパワーになり、いくら激しい戦いがあっても、勝利を確実なものとして収めることができる。

まとめ:日本に足りないものが米国にはある

    日本には実は多くの良いアイデアがある。シリコンバレーで活躍しているスタートアップのアイデアや技術のほとんどは、日本では既に10年もしくは20年前に出されていた。日本人は基本的に村文化を持つ農耕民族であり、一カ所に定住し物事をじっくり作りあげるのが得意である。良い仕事をこなせる職人も少なくない。技術研究やものづくりには高い職人魂を持っている。

    一方で、狩猟民族のように一発にかけて獲物を倒す狼的な本能を持ち、広大なる荒野を走り回り、いろんな環境と状況の変化に迅速に順応し、他人より一足早く獲物を探し出して勝ち取ることがどうしても苦手である。

    ところが20年以上前にインターネットが出現し、その上に広大なる荒野が出現した。狩猟民族の代表として、アメリカ西部にあるシリコンバレーの人々がいち早くこの荒野にある巨大な獲物(ビットエコシステムによるビジネスチャンス)に気付き、検索エンジンを始め、eコマースやSNSなど各種インフラとなるエコシステムを次から次へと作りあげた。
 近年になって第4次産業革命が起き、ものづくりもインターネットとつながり、市場が従来にない激しさで変化し、製品の更新周期もどんどん短縮された。従来のスタンドアローンかつじっくり企画してものを作って行く日本固有のやり方では、このような市場変化と製品更新周期スピードアップについて行けなくなった。電機メーカーを含めた日本のIT企業は、競争相手に追い越されただけでなく、相手の背中がだんだん遠くなって行くのが現状である。

    ここで、上述した「Magnificent Seven」のモデルとそれに対する解説を論理的につないで行けば一つのヒントに気が付く。優れたアイデアや職人魂を持つ技術者が多い日本に唯一極端に欠けていたのは、世界で戦うスタートアップを成功に導ける人材と彼らを育てる土壌だったと。

    米国特にシリコンバレーにはアイデアやイノベーションを見つけてきて、それらを世界レベルの新しい企業に導いていける達人がたくさんいる。日本側は自分たちのアイデアやイノベーション、ものづくりの強みを生かして、場合によってさらにクラウドファンディングまでして、どんどん米国側のスタートアップの達人たちにアプローチすればよい。達人たちの目利きでニーズや市場規模および勝算を認められれば、さらに創立者の理念とパッションにも同調してくれれば、この二つのグループの人々は一丸になることができる。そうなれば、世界レベルで戦える新しい日米スタートアップ企業が誕生する。

    日本人はこのようなスタートアップに参加することによって、習いながら戦い、戦いながら習うことができる。さらにこういう各種人材や文化と技術などが混ざることによって化学反応が起き、各メンバーも大きく変わり始める。数年後、日本にも世界レベルのスタートアップのさまざまな優れた人材が出現するのであろう。